労働者と雇用者の利害が一致していた

力仕事に砂糖は必要

後に砂糖は米に変わる

「安いコストで高い生産性」を求める工場主が、休憩時間に砂糖たっぷりの紅茶を提供するのは、工場運営と生産のコストパフォーマンスから考えればベストの選択だったし、労働者もそれを望んでいたということです。しかも、その砂糖が極めて廉価で手に入り、おまけに「栄養価の高い健康食品」でもあったわけだから、「労働者の健康のために」砂糖入り紅茶を提供することは善行となったのは言うまでもありません。

そして結果的に、晴好品である砂糖(糖質)の持つ習慣性・中毒性が、労働者支配の手段として有効に作用したということです。

この「砂糖」を、同じ糖質である「米」に置き換えると、明暦の大火からの復興のために全国から集められた大工や職人の食事と労働の関係に、重なってきます。

江戸の大工や職人たちは、故郷では1日に2 回の食事をしていて、米はほとんど食べていませんでした。しかし、江戸には米がふんだんに溢れていて、もっとも入手しやすい食料だったのです。めったに口にできなかった米の美味さに驚き、江戸で働くことの幸福を、文字どおり噛みしめたはずです。

米の飯は、塩辛いおかずと組み合わせると、至福の美味となります。一度でもその味を覚えてしまったら、もう昔ながらの雑穀や大根飯の生活に戻りたいとは誰も考えません。米の飯で生まれた空腹は、米の飯でなければ満たされないのです。

一般に、雇用者側は労働者を、安い賃金で長時間働かせたいが、労働者側は、短時間労働で高い賃金を手にしたい。もちろん、両者の思惑は両立しないのです。

しかし、そこに砂糖や米を介在させると、労働者側の欲求をうまくすり替えることができるのです。嗜好品である糖質(=米や砂糖)は労働者に麻薬的に作用し、賃金を得ることと糖質をとることとの境目が曖昧になっていき、どちらが目的だったかがわからなくなってしまうからです。

そうなると、労働者たちにとって、「働くために糖質を欲するのか、糖質が欲しくて働くのか」は区別も暖昧になってきます。そしてこれは、工場主や幕府にとって、もっとも好ましい状況といえるのです。米も砂糖も安い商品となったからに他なりません。

19世紀のヨーロッパでは、砂糖を渇望して労働者が働き、日本では、米を食べるために職人たちが働きました。まさに、晴好品である糖質にしかできないわざであると言えるでしょう。

その後、さまざまな嗜好品が支配の道具として使われました。第二次大戦では、多くの国で兵士の恐怖感を和らげる目的で、タバコを支給して喫煙を奨励したし、ベトナム戦争でアメリカ軍が兵士にマリファナを配給したことは有名です。

糖質制限食による血糖値を下げる効果とダイエット効果

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