このままではアメリカは沈んでしまうと考えた

副作用の多い薬だけで病気は治らない

80年代から目立つアメリカの健康への取り組み

現代医学は栄養のことに盲目な片目の医学であり、それゆえに効率の悪い医学になっている、この医学を新しい医学に変えるための医学革命が必要であり、同時に医者の再教育が欠かせないのです。これがM委の現代医学に対して下した「診断書」で、同時に「処方箋」でもあったということです。これがアメリカの多くの医大における本格的な栄養学コースの設置といった動きを進める背後のインパクトにもなっているのです。

また、これは一般世間の人々の医学を見る眼にも影響を与えていることをよく示すのがいわゆる代替療法への関心の高まりです。代替療法という言葉は薬や手術を主体とする現代医学とは違った医学と理解されていて、食事・栄養療法、薬草療法、ライフ・スタイルの改善、心理コンサルティング、カイロプラクティックなど多くの療法を総括していわれますが、一言でいえば薬や手術主体の「科学的」医学と違って「自然な」医学と考えられているものです。

7~8年前からアメリカの幾つもの調査では、病気になった場合に従来の医学よりもこのような代替医学に頼る人のほうが多くなっていることが明かにされています。

新しい医学への動きはM委レポート以後、各国で次第に強まってきて、現在もそれが続いているだけでなく、1960年代からはその動きはいっそう加速されています。ここではアメリカの公式あるいは準公式の動きを中心にまとめてみましょう。公式とはアメリカの政府機関、準公式とは同国科学アカデミー、それに医師協会などのことです。

古いところでは1977年のM委レポートの影響下で80年にアメリカ農務省と保健福祉省が「栄養とあなたの健康アメリカ国民のための食事ガイド・ライン」を発表しました。そして翌81年にはこれを日常生活にすぐ活用できるようにさらに具体化して書いた『ガイド・ライン活用のためのメニューと料理法』というパンフレットも農務省が発行しました。M委レポートを日常生活の場で国民に浸透させるためです。

80年に「健康的な食事を目ざして」というレポートをまとめたアメリカ科学アカデミーは82年に『食事・栄養とガン』というすぐれた報告書を発表しました。この報告書は調査、研究の最終的な結論を「食事の違いがガンの種類と発生率の違いに関連している」と述べました。つまり、健全な食事ならガンの発生も少なくなるといったわけで、この報告書は日本でも厚生省(当時、現厚生労働省)が監修して翻訳され、『がん予防と食生活』という書名で出版されました。

80年代の目立った動きとしてこの他にぜひ取り上げておくべきことが3つほどあります。

1.食ピラミッド

これはアメリカ農務省が食事のバランスを国民にわかりよく示すために工夫したものです。食べ物を穀類、野菜、果物、乳酪食品・豆類・肉類・魚・卵・ナッツ類、油脂、砂糖などといった幾つかの食品群に分けて、食生活全体での各食品群の重要度や摂取比率えピラミッドの形で示したものでした。ピラミッドでもっとも重要なのは一番下の土台の部分で、同時にこの部分が一番面積も広くなります。そしてピラミッドは上部にいくに従って重要度も減り、面積も小さくなります。食事ピラミッドでは穀類が一番下の土台に当てはめられていて、これは全ての食事の土台なので量もそれだけ多くとることになります。そのすぐ上は野菜や果物、そしてその上は乳酪製品や肉、魚などの蛋白食品、そしてピラミッドの一番上の油脂や甘味料などは控え目にとれとなっています。

この食事ピラミッドは誰にもわかりやすいだけに話題にもなり、いまも食事のバランてを示す時のガイドとして利用されています。

2.ガン予防作戦と従来のガン治療への反省

ここで86年、上院の労働・人間資源委員会での2人の学者の証言を紹介ましょう。

アメリカ国立ガン研究所(NCI)の予防部長グリーンウォルド博士はこう証言しています。「現在の知識を十分に活かせばガンの70% 、心臓病の60% は減らせる」はずというものです。

ガンと食事の関連は公式の立場としてはM委が世界で最初に指摘したものでした。そして77年のM委のレポートでは食事改善でガンは20% 、心臓病は25% 、糖尿病は50%も減らせると推定していたのです。しかし、M委レポートの影響下でNCI はガン予防のための食事プログラムの研究といったプロジェクトを発足させたり、前述のような科学アカデミーの研究も進んだりした結果として、86年には「現在の知識を十分に活かした食事静善でガンの70% は減らせる」というグリーンウォルド博士のような発言もなされるようになったのです。

同じ委員会で当時NCIの所長だったデヴィタ博士がした証言は、グリーンウォルド博士の証言とは違う意味で大きな意味を持つ証言でした。デヴィタ所長はこう証言しました。「分子生物学の発達などで遺伝子の仕組みや働きが詳しく調べられるようになってショッキングなことがわかりました。それはガン細胞の中には抗ガン剤対抗遺伝子とも呼ぶべき遺伝子があることです。抗ガン剤をぶつけてもガン細胞はこの遺伝子の働きで、抗ガン剤に負けない細胞に自分を変身させてしまうのがわかったのです」

つまり抗ガン剤ではガンには対抗できない、抗ガン剤でガンが治せないことが理論的に立証されてしまったわけで、だからデヴィタ所長は自分はガンのプロとしてこれに大きなショックを受けているとも証言しました。

ある害虫に農薬を使うとその農薬の効かない新種が登場してくることはよく知られているのですが、ガン細胞の場合もこれと同じだったというわけです。

実は同じ問題は88年の日本癌学会総会でも大問題としてシンポジウムまで組んで論じられました。このシンポジウムは「ガン細胞の抗ガン剤耐性」(つまりガン細胞の抗ガン剤に対する抵抗性の意味)と題して国立がんセンターの下山正徳氏が座長になって進められました。シンポジウムはそれだけの大問題だから組まれたわけで、シンポジウムの論者のエライ先生も来聴者の研究者もガン専門医も、抗ガン剤でガンが治せないことがこれだけ明確になってはただ腕組みして悩むしかなかったのです。

実はガンは抗ガン剤では治せなくとも、より自然な栄養・食事療法などで治せることがいまではかなり明確に理解されるようになってきました。しかし、いずれにせよ、デヴィタ証言はM委が指摘した「栄養や食事のことに盲目な片目の現代医学」の欠陥をさらけ出したものであったのに間違いはありませんでした。

同じ委員会の同じ席でデヴィタ所長はその前年からN CIがスタートさせたガンの栄養療法の研究についても説明しました。これは26の新しい研究、治療プロジェクトで、内容はビタミンA、B類、C、E、総合ビタミン、セレニウム(特にガンに効果的なミネラル)、総合ミネラルによるガンの治療実験といったものでした。これは栄養のことに盲目なゆえに非効率な現代医学からの新しい医学への転換期でした。

90年秋アメリカ議会技術評価局(OTA)のガン問題専門委貞会が発表したガンの代替療法という報告書はM委レポートに劣らない衝撃的なものでした。このレポートは日本のNHK特集も取り上げられました。このレポートは「抗ガン剤、放射線、手術を主体とする現代医学のガン療法は過去50年来ほとんど進歩の跡が見られない、NCIもゲルソン療法など自然で効果的なガン療法の研究に力を入れよ」と指摘しました。

アメリカの医学研究の頂点に立つ国立衛生院(NHI)が92年に代替療法調査委貞会(OAM)を発足させたのはOTAレポートが与えた衝撃の中でした。読んで字のごとく現代医学に代わる代替療法を本格的に調査研究する委員会でOAMは毎年、組織も予算も拡大し、現在では単なる委員会からさらに格上の独立した行政機関になっています。

薬や手術のことばかりだったアメリカ医師協会の世界的に有名な機関誌「JAMA」も90年代からは代替療法のことをかなり紹介するようになっています。数年前にはアルツハイマー患者に健康食品のいちょう葉エキスを使った大規模な治療実験の結果を報告、「いちょう葉エキスは従来のどんな薬よりもアルツハイマーに効果的だった」と結論しています。

イチョウ葉エキスの効能、効果

薬よりも健康食品というわけで一時代前には考えられなかった大きな変化です。健康食品の兄弟ともいえる機能性食品(正式名は特定保健用食品) は日本でもかなりなじみのものになってきました。これは食品の第三次機能(栄養やうまさといった第一次、第二次機能以外のたとえば免疫強化機能など)を持つ食品のことで、日本では10余年前から研究が進み、いままでに250種類余りのものが国の認可を受けて市販されています。

トクホのイサゴールなどはトクホ製品です。

間違った食生活が免疫を低下させている

いま先端の医学研究者の間で、現在の医学を根本的に変革するかもしれないといわれているのが人体の持つ自然な抵抗力、免疫の研究です。糖尿病など、従来は免疫とは関係のない病気と考えられてきました。しかし、最先端の免疫の研究によれば、糖尿病が発病するきっかけには免疫機構もからんでいるのだとわかってきました。免疫に重要な役目を果たしている白血球は外敵に対して戦いますが、その白血球の働きに問題がある人が糖尿病になることがわかってきたのです。白血球の働きに問題があるため、それが膵臓へのダメージにつながり糖尿病になっていくというのです。

免疫の研究は全ての病気に関係があり、アレルギーなども免疫の観点から説明できる部分の多いことがわかってきました。

日本では、諸悪の根源はアメリカにある、光は東方からかもしれませんが諸悪はアメリカからやって来るなんてよくいわれてきました。病気にしても社会現象にしても大抵の悪いことはまずアメリカに起こる。これはアメリカが20世紀文明の悪い面のリーダーでもあるための当然の帰結です。いままたエイズなんて変な病気もアメリカが先進国では先端を行っています。エイズのような弱いウィルスが病気として発現するのは、肉体の自然な防衛力、免疫が間違った食生活のために極端にダウンしているからとしか考えられません。食生活が過度に文明化し、バランスを失ったこととエイズの蔓延が無関係とは思えません。

いま医学全般を変えるかもしれないと先端の研究者がいう免疫の研究は、免疫の面から食事・栄養の重要さを明らかにし、ひいては病気の治療にも、いい栄養による免疫力の強化が根本的な治療法だということを明らかにしていくに違いありません。要するに最先端の免疫の研究は、そういう方向で医学を変革することになるに違いないということです。そして、そういう免疫、体の持つ自然な防衛力の基礎になっているのが、取りも直さず食事・栄養です。だから食事・栄養に盲目だった20世紀の薬医学が支配的だった中で、食事・栄養の重要性を公式の立場から初めて説いたM委の指摘は「歴史的」なものと評価されて当然です。わけだ。

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